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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)670号 判決

一、当裁判所は、原判決七枚目裏三行目と四行目との間に後記第二項のとおり附加するほか、原判決と同一の理由により、本件(一)および(二)物件は本件特許発明の技術的範囲に属さないと認めるので、これを引用する。ただし、原判決三枚目表九行目「原告浦野が本件特許権者であり、」を削除し、同行「その」を「本件特許権の」と訂正する。

二、前述の当事者間に争いのない事実および前掲各証拠によれば、次の事実が認められる。

本件特許発明の糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔は、前認定のとおり、いずれも機械の先方の側の孔壁部を欠除した形状である。この欠除部分は、両孔を、針ガイド板にあけられた上下貫通孔部により互に連絡するだけではなく、針ガイド板の両孔の間の部分の上面に綴糸を一時抑止する作用を営ませる機能を有する。また、針ガイド板のこの部分(綴糸を一時的に抑止する部分21)は、綴糸を一時抑止するだけではなく、その後にこれを外れさせ、ループを形成させる作用を有する。すなわち、綴糸は糸針の下降に伴い、針ガイド板のこの部分の上面で一時抑止されるが、綴紙が引き続き綴付けられて機械の先方に送られて行くに従い、この部分の上面を滑つてこれから外れ、これによつてループが形成され、このループが上下貫通孔部内に取付けられた綴糸切断刃物に引きつけられて自動的に切断される。そして、針ガイド板の前記の部分がこのような作用を有するため、本件特許発明は「簡潔な構成に基き製本糸綴機として在来の機種を改良」する効果を有するのである。

これに対し、本件(一)物件の糸針用案内孔13と綴糸くぐり出し孔20は、控訴人主張のとおり、機械の横手の側の孔壁部を欠除した形状である。この欠除部分は、両孔を、針ガイド板15、前面板15(定台)にあけられた上下貫通孔部(隙間22)により互に連絡する機能を有するけれども、針ガイド板の両孔の間の部分の上面に綴糸を一時抑止する作用を営ませる機能を有しない。また、控訴人主張の掛止片21は、綴糸を一時抑止した上、その後にこれを外れさせてループを形成させる作用を有しない。すなわち、綴糸は糸針の下降に伴い、掛止杆の先端に形成されたこの掛止片21の上面で抑止され、綴紙が引き続き綴付けられて機械の先方に送られて行くに従い、掛止片21から外れることなく掛止杆の基端の方向に送られ、掛止杆の一部に設けられた糸切断刃23によつて自動的に切断されるのである。しかも、この掛止片21は針ガイド板15とは別個の鈎状の部材であるから、本件(一)物件は、本件特許発明に比べて、それだけ複雑な構造となることが明らかである。

次に、本件(二)物件の糸針用案内孔(溝)13は、控訴人主張のとおり、機械の後方の側の孔壁部を欠除した形状であるが、綴糸くぐり出し孔に相当する作用効果を有する部分は単なる溝である。したがつて、針ガイド板の糸針用案内孔と綴糸くぐり出し孔との間の部分が綴糸を一時抑止する作用を営むことはあり得ない。また、控訴人主張の掛止片21は、綴糸を一時抑止した上、その後にこれを外れさせて、ループを形成させる作用を有しない。すなわち、綴糸は糸針の下降に伴い、針ガイド板15の隙間22に臨む凹部に設けられたこの掛止片21の上面で抑止され、綴紙が引き続き綴付けられて機械の先方に送られて行くに従い、掛止片21から外れることなくその基部の方向に送られ、前記の凹部に設けられた糸切断刃23によつて自動的に切断される。しかも、この掛止片21は針ガイド板とは別個の鈎状の部材であるから、本件(二)物件は、本件特許発明に比べて、それだけ複雑な構造となることが明らかである。

以上認定したとおり、本件(一)物件の糸針用案内孔13および綴糸くぐり出し孔20ならびに本件(二)物件の糸針用案内孔13における孔壁欠除部分は、本件特許発明のそれらと同一の機能を有しない。そしてまた、両物件の各掛止片21は本件特許発明の綴糸を一時的に抑止する部分21と同一の作用効果を有しない。したがつて、両物件と本件特許発明の構造の相違を単なる設計変更に過ぎないとする控訴人の当審における主張は、その余の判断をするまでもなく、失当であることが明らかである。

三、以上のとおりであるから、本件(一)および(二)物件が本件特許発明の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の請求は、いずれも失当として棄却をまぬがれない。よつて、これと同趣旨の原判決は正当である。

〔編註〕 本件における事実は左のとおりである。

一、控訴人は「一、原判決を取消す。二、控訴人に対し、(1)被控訴人南精機株式会社は原判決添附第一目録(一)記載の製本糸綴機を、(2)被控訴人有限会社秋元鉄工所は同第一目録(二)記載の製本糸綴機を、(3)被控訴人株式会社南機械製作所は同第一目録(一)記載の製本糸綴機をそれぞれ製作し、販売し、販売のため展示してはならない。三、控訴人に対し、(1)被控訴人南精機株式会社は金二〇〇万円、(2)被控訴人有限会社秋元鉄工所は金一七〇万円、(3)被控訴人株式会社南機械製作所は金二〇〇万円およびそれぞれこれらに対する昭和四二年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。四、控訴人に対し、(1)被控訴人南精機株式会社は原判決添附第二目録(一)記載の謝罪広告を、(2)被控訴人有限会社秋元鉄工所は同第二目録(二)記載の謝罪広告を、(3)被控訴人株式会社南機械製作所は同第二目録(三)記載の謝罪広告を、表題、本文中の特許番号、被控訴人等の商号および宛名は二号活字、その他は三号活字でもつて、東京製本紙工業協同組合発行の雑誌「製本紙工界」および大阪製本工業協同組合発行の雑誌「製本と紙工」(被控訴人有限会社秋元鉄工所を除く。)に三回ずつ掲載せよ。五、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決ならびに第三項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人等は控訴棄却の判決を求めた。

二、当事者双方の主張および立証は、控訴人において第三項のとおり附加し、被控訴人等において、本件(一)および(二)物件と本件特許発明との構造の相違は単なる設計変更に過ぎないとする控訴人の主張事実は否認する、と述べたほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決一一枚目裏三、四行目「有する。」とあるのを「取得した。」と、同三〇枚目裏一〇、一一行目「本件特許発明」とあるのを「本件(二)物件」と、同三五枚目表五、六行目「原告らの本件特許権ないし」とあるのを「控訴人の」と、同八行目「原告ら」とあるのを「控訴人」と訂正する。

三、(一)本件(一)物件の(2)の構造では、本件特許発明の糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔の各孔壁部を欠除する方向を、機械の先方の側から横手の側に変更し、この両孔を針ガイド板にあけられた上下貫通孔部により互に連絡している。また、本件(二)物件の(2)の構造では、本件特許発明の糸針用案内孔の孔壁部を欠除する方向を機械の後方の側に変更し、この部分により糸針案内孔を、隙間22の上下貫通孔部に該当する部分(糸針用案内孔側の部分)により、その綴糸くぐり出し孔に該当する部分(鈎針用案内孔側の部分)に連絡している。

しかし、製本糸綴機は、メーカーによつて機械の形状は勿論、各部分の寸法、針の長短および太さ、定台の大小、厚薄等が異なるから、糸針用案内孔の形状、位置も相違があり得る。したがつて、糸針用案内孔および綴糸くぐり出し孔の欠除部分が機械の先方の側にあるか、後方の側にあるかまたは横手の側にあるかは単なる場所的な違いに過ぎず、機械の構造として重要なことは、糸針用案内孔と鈎針用案内孔との間に綴糸くぐり出し孔を設けているかどうかである。そして、本件(一)物件が糸針用案内孔13と鈎針用案内孔14との間に綴糸くぐり出し孔20を設けていることは、その(1)の構造から明らかである。また、本件(二)物件は、わざわざ針ガイド板15と前面板15´との間に間隙保持板15´´を介在させて全巾にわたつて隙間22を設けているが、これは綴糸をくぐり出すためであるから、糸針用案内孔13と鈎針用案内孔14との間に綴糸くぐり出し孔を設けているものと何ら異なるものではない。

したがつて、本件(一)および(二)物件の各(2)の構造は、本件特許発明の(ロ)の要件の単なる設計変更に過ぎない。

(二) 本件(一)および(二)物件では、本件特許発明の(ハ)および(ニ)の要件と異なり、綴糸を下面で案内して綴糸くぐり出し孔にくぐり出し、かつ上面で綴糸を一時的に抑止する部分が糸針用案内孔と綴糸くぐり出し孔との間に設けられてはおらず、綴糸切断刃物が上下貫通孔部内に取付けられていない。しかし、本件(一)物件の(3)および(4)の構造では、綴糸を下面で案内して綴糸くぐり出し孔にくぐり出し、かつ上面で綴糸を一時的に抑止するための鈎状の掛止片21が掛止杆の先端部に、綴糸切断刃23がこの掛止杆の一部に形成され、これらを糸針用案内孔と綴糸くぐり出し孔を連絡する隙間22の下側に臨ませてある。また、本件(二)物件では、前述のとおり、隙間22のうち鈎針用案内孔14側の部分が綴糸くぐり出し孔に、糸針用案内孔側の部分が上下貫通孔部に該当する。そして、本件(二)物件の(3)および(4)の構造では、綴糸を下面で案内して隙間22の前者の部分にくぐり出し、かつ上面で綴糸を一時的に抑止する掛止片21と糸切断刃23が、隙間22の後者の部分に臨む針ガイド板15の凹部に設けられている。

ところで、製本糸綴機において綴糸を一時的に抑止する部分が必要であるのは、これがなければ糸綴された製本各冊の綴糸が切れてばらばらになつてしまうからである。したがつて、この一時的抑止部分が糸針用案内孔と綴糸くぐり出し孔との間になくても、他の場所から両孔間の上下左右の部分に臨ませるようにしてあるものは、両孔間に一時的抑止部分を設けているものと何ら異なるものではない。

したがつて、本件(一)および(二)物件の各(3)、(4)の構造は、本件特許発明の(ハ)、(ニ)の要件の単なる設計変更に過ぎない。

(三) そもそも、特許権は新規な技術的着想を保護するものであるから、特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の字句や明細書添附の図面と同一の構造であるかどうかだけで判断すべきものではない。形状や構造が異なつても、特許発明と作用効果が同一であり、同一の着想に基づくものは、いずれもその技術的範囲に属するものである。本件(一)および(二)物件は、前述のとおり、本件特許発明と同じ着想に基づき、同じ作用効果を生ずるものであるから、前述の相違点は単なる設計変更であり、両物件はいずれも本件特許発明の技術的範囲に属するものである。

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